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カイロ3日目の昼下がり。 砂と瓦礫の街にもそろそろ飽きてきた。 お金もほとんど持っていなかった。 エジプトポンドは使い果たしており、20ドルちょっとと、 使えるのかよくわからないユーロと、いざという時に役に立たない日本円。 恋人同士か新婚旅行ならば、早めにホテルの部屋に戻ってもやることはいくらでもあるけど、 俺は一人でベンチに座り、遠くに見えるピラミッドを眺めていた。 しばらくすると向かいのベンチに座っていた男が話し掛けてきた。 俺は暇つぶしにちょうどいいと思い、相手をすることにした。 男の名前はモハメド・アリ。 職業はなんだとか、恋人はいるのかとか、そんな何でもない話をした。 そして、彼は「これから家に遊びに来ないか?」と言い出した。 「地球の歩き方」の『旅先でのトラブル』コーナーに載っていそうな、絵に描いたような流れだ。 もちろん最初は断った。 だが、彼はなかなか諦めない。 「心配するな」「すぐそこだから」 俺もだんだん好奇心を抑えられなくなっていた。 そして俺は運がいい。運試しにいいかもしれない。 それに、たとえ金品を奪われたり北朝鮮に売られたりしたとしても、 日本に残してきた失意に比べればたいした事はないだろう。 どうにでもなれっ、俺!! 俺は彼と一緒に彼の家に向かっていた。 歩いて行けるくらいに近いと思っていたが、バスに乗った。 10分くらい走ったところでバスを降りた。 日本でいう下町のような感じの場所だ。 道路はもちろん舗装されておらず、道端には鳥の皮がそこらじゅうに捨ててあってハエだらけ。 子供達はぼろぼろのサッカーボールを蹴って遊んでいる。 「こっちだ」彼は狭い路地を奥へ奥へと進んでいく。 「もう帰れない・・・」 俺は彼に運命を預けた。 「ここだ」彼は立ち止まって3階建ての家を指差した。 「屋上からはピラミッドも見えるんだよ」彼は自慢気に言う。 中に入ると、母親と妹がいた。 彼の部屋に通された。 紅茶が出てきた。 俺は最大限の警戒体制でその紅茶に口をつけた。 数分後、なんともない。 「睡眠薬ってどのくらいで効き始めるのかなぁ?」
エジプトの曲をラジカセで流してくれたが、うるさいだけだった。 彼は一通の手紙を取り出した。 消印はイングランドだ。 彼は同じように世界中の旅行者と友達になって、家に招いているらしい。 その英国からの手紙は彼に対する感謝の手紙であった。 彼は英語は話せるけど、読むことも書くこともできないらしい。 その手紙を俺に渡して「読んでくれ」と言った。 しかし俺だってそんなに英語が得意なわけじゃない。 ましてや、本国人の英語などとても難しい。しかもかなりの長文だ。 最初は一生懸命に訳していたが、途中から面倒くさくなり、 文中に『rain』なんて文字を見つけようものなら、「彼の町は雨が多いらしいよ」などと適当な訳に・・・ でも彼は十分に満足してくれた。
「今から鳥を絞めるてくから」などという物騒な言葉を残して彼は部屋を出ていった。 数分後、出来立てほやほやの食事が出てきた。 既に警戒心の解けた俺は、その食事にありついた。 とっても美味しかった。
帰り間際に彼が住所を書いてくれた。 「日本に帰ったら手紙を書くよ」
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