カイロにて4

カイロ3日目の昼下がり。
砂と瓦礫の街にもそろそろ飽きてきた。
お金もほとんど持っていなかった。
エジプトポンドは使い果たしており、20ドルちょっとと、
使えるのかよくわからないユーロと、いざという時に役に立たない日本円。
恋人同士か新婚旅行ならば、早めにホテルの部屋に戻ってもやることはいくらでもあるけど、
俺は一人でベンチに座り、遠くに見えるピラミッドを眺めていた。

しばらくすると向かいのベンチに座っていた男が話し掛けてきた。
俺は暇つぶしにちょうどいいと思い、相手をすることにした。
男の名前はモハメド・アリ。
職業はなんだとか、恋人はいるのかとか、そんな何でもない話をした。
そして、彼は「これから家に遊びに来ないか?」と言い出した。
「地球の歩き方」の『旅先でのトラブル』コーナーに載っていそうな、絵に描いたような流れだ。

もちろん最初は断った。
だが、彼はなかなか諦めない。
「心配するな」「すぐそこだから」
俺もだんだん好奇心を抑えられなくなっていた。
そして俺は運がいい。運試しにいいかもしれない。
それに、たとえ金品を奪われたり北朝鮮に売られたりしたとしても、
日本に残してきた失意に比べればたいした事はないだろう。

どうにでもなれっ、俺!!

俺は彼と一緒に彼の家に向かっていた。
歩いて行けるくらいに近いと思っていたが、バスに乗った。
10分くらい走ったところでバスを降りた。
日本でいう下町のような感じの場所だ。
道路はもちろん舗装されておらず、道端には鳥の皮がそこらじゅうに捨ててあってハエだらけ。
子供達はぼろぼろのサッカーボールを蹴って遊んでいる。
「こっちだ」彼は狭い路地を奥へ奥へと進んでいく。
「もう帰れない・・・」
俺は彼に運命を預けた。

「ここだ」彼は立ち止まって3階建ての家を指差した。
「屋上からはピラミッドも見えるんだよ」彼は自慢気に言う。
中に入ると、母親と妹がいた。
彼の部屋に通された。
紅茶が出てきた。
俺は最大限の警戒体制でその紅茶に口をつけた。
数分後、なんともない。
「睡眠薬ってどのくらいで効き始めるのかなぁ?」

警戒心
警戒レベル最高潮
彼は彼の部屋のいろんな物を見せてくれた。
エジプトの曲をラジカセで流してくれたが、うるさいだけだった。
彼は一通の手紙を取り出した。
消印はイングランドだ。
彼は同じように世界中の旅行者と友達になって、家に招いているらしい。
その英国からの手紙は彼に対する感謝の手紙であった。
彼は英語は話せるけど、読むことも書くこともできないらしい。
その手紙を俺に渡して「読んでくれ」と言った。
しかし俺だってそんなに英語が得意なわけじゃない。
ましてや、本国人の英語などとても難しい。しかもかなりの長文だ。
最初は一生懸命に訳していたが、途中から面倒くさくなり、
文中に『rain』なんて文字を見つけようものなら、「彼の町は雨が多いらしいよ」などと適当な訳に・・・
でも彼は十分に満足してくれた。

部屋 路地
彼の部屋の様子 部屋の窓から見た路地
そのうち、御飯も食べて行けという。
「今から鳥を絞めるてくから」などという物騒な言葉を残して彼は部屋を出ていった。
数分後、出来立てほやほやの食事が出てきた。
既に警戒心の解けた俺は、その食事にありついた。
とっても美味しかった。

モハメド・アリ
友達のモハメド・アリ

帰り間際に彼が住所を書いてくれた。
「日本に帰ったら手紙を書くよ」
住所
どこが名前で、
どこが住所か、誰か教えてください。



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