「Asian Flower」


最初に住んでいたアパートはひどい所だった。
家賃は150ドル。
ダウンタウンのど真ん中で、
薄汚れたホテルが立ち並んでいた。
警官がよくパトロールに来ていたので、
事件というものは起きなかったが、
夜はやっぱり怖かったものだ。

部屋は二部屋で、
ユージンという韓国系アメリカ人の大学生との共同生活だ。
大学で植物の研究をしていると言っていた。
英語もろくにわからない俺にとって、
彼のアジアン訛りの英語はさらに聞き取りにくかったが、
古ぼけた安いギターを拾ってきて歌っているうちに、
徐々に心が開いていくのを実感していた。
彼は歌もギターもまったくへたくそだったけれど、
俺は彼の歌う『風に吹かれて』が好きだった。

ユージンのおじいさんは先の戦争で戦死していた。
そのため、彼の父親は反日感情剥き出しの人だった。
ユージンとも仲良くなったある日、
突然彼の父親が二人の部屋に飛び込んできて、
「★☆§§@★☆§@★☆§@!」
まったくわからない言葉を怒鳴り散らしながら、
彼はユージンを殴り始めた。
止めに入った俺もすぐに殴り返された。
その日の夜、二人は泣いた。
出てくる言葉はただ『ソーリー、ソーリー』だけ。
大事に少しずつ飲んでいたヘネシーをあおり、
一晩中泣いた。
アジアの悲しみを二人はニューヨークで実感してしまったんだ。

次の週末にユージンは部屋を出て行った。
最後に彼はこう言い残していった。
『僕は桜の木が大好きだ。
いつの日か何万本もの桜をソウルに咲かせて、
ゴローに見せてあげたい。So someday, someday・・・』