『Dancin' On The Street』


アメリカンドリームの象徴、ニューヨーク。
ニューヨークの街は、至る所で野心の香りがする。
渋滞のタクシー、地下鉄の壁、電話ボックス、共同墓地・・・。
抑えきれない夢を持ち合わせた若者たちが、
世界中から引き寄せられてくるわけだ。

俺が日本を飛び立つとき、そんな熱き心があったのかと言うと、
実際はそうではなかった。
しおれた花のような虚脱感と、虚無感。
まるで負け犬のように抜け出してきたのだ。

だから、アイツに会った時は初めて光を見た赤子のようだった。

その日はバイトの給料日だったので、
少し離れたショッピングモールまで買い物に出かけていた。
サラミやら、靴の紐やらくだらないものを買い込み、
いつもならバスで帰るのに歩いて帰ることにした。

ビルの間に夕陽を見ながら、ローズ・パークを横切ろうとした時、
聞きなれないダンスミュージックが聞こえてきた。
なぜ、聞きなれない音なのかはすぐに分かった。
それは日本のダンスミュージックだったからだ。
その時は知らなかったけれど、
その歌を唄っているダンスユニットは当時、
日本で人気絶頂だったらしい。
そしてそこには、曲にあわせて黙々と踊るT君の姿があった。

どちらからともなく声を掛けていた。
俺はそのダンスユニットの音楽は苦手だったけれど、
彼の部屋の机の上に『尾崎豊』のCDがあるのを見つけてからは、
まるで昔からの親友のように打ち解けあえた。
一緒に飲むときはとことんまで飲んだ。
酔っぱらうと、気が大きくなる彼の酒癖のせいで、
何回か痛い目にもあった。
そして、そのたびに友情は深まっていった。

彼はダンサーになるためにニューヨークに来たと言う。
そして、『2年』というタイムリミットを自分で設けていた。
俺が知ってるだけでも、週に1回はオーディションを受けていた。
しかし、情熱だけでは生き残れないというのもこの街のルールの1つで、
度重なる挫折に疲れていくのが傍目でもよくわかった。

ある夜、泥酔した彼が俺のアパートにやってきた。
「もう、だめだ」
彼の口から始めて弱音を聞いた。
しかし俺は何も答えてあげることができなかった。
『諦めずにやっていけば、この先きっと成功する』
などと約束できる自信が自分にはなかったんだ。
彼にまだダンスを続けるように説得して、
もしそれが結局失敗に終わってしまった時に、
その後の彼の人生を保証する勇気がなかったんだ。

T君と会ったのはそれが最後だった。

誰もいない真夜中のローズ・パークで、
彼は銃の引き金を引いたんだ。