『First Love』


ニューヨークという街は「恋に落ちろ」と、人に誘惑する。
アスファルトに染み付いた恋人たちの数々の匂いが、
嫌でも甘い気持ちを駆り立てる。
日本人の陰気くさい恋にうんざりしていた俺は、
ニューヨークで可愛い青い目の恋人が欲しかった。
ジュリア・ロバーツのようなグラマラスな恋人も欲しいし、
メグ・ライアンみたいなキュートな恋人も欲しい。
とにかく、ニューヨークは一人で歩くにはあまりにも寂しい街なのだ。

ニューヨーク生活も2ヶ月、いつのまにか恋に落ちていた。
しかも、黒い目をしたジャパニーズガールに。
彼女はユージンの学校のクラスメイトだった。
始めて会った時のことは今でもよく覚えている。
その日はひどい吐き気と腹痛で朝から起きられなかった。
午前中はユージンが看病をしてくれていたが、
午後からは授業だから無理だという。
帰りに薬とオレンジジュースを買ってくる約束をして、
ユージンは学校に行ってしまった。
一人部屋に残された俺は、
朦朧としながら窓の外の灰色の空を眺めていた。
薄れゆく意識の中で日本の空を思い出していた。
同じようにこの空を眺めているであろう
世界中の人のことを思い浮かべていた。
名も知らぬ川原で釣り糸を垂らしながら空を眺めている少年。
戦火に倒れた両親の亡骸を腕に抱えて、
天を睨む少女が見ている空。
不条理な生活を強いられながらも、
いつか自由を夢見る少年が見ている空。
そうすると不思議なもので少しだけ気分がよくなった。

うとうとし始めたころドアが開いてユージンが帰ってきた。
彼は俺を起こすまいとしてであろうか、静かに静かに歩いてくる。
イタズラ心に火がついた俺は、
死んだふりをして彼を驚かそうと思い付いた。
彼は静かに静かに俺のベッドに近づいてくる。
俺は布団に包まりピクリとも動かない。
彼はベッド脇に立ち、俺の肩をゆすった。
俺は動かない。
彼は俺の首筋に冷たいビンか何かを押し付けた。
ひやっとしたが、俺は我慢して動かない。
いよいよ彼は慌てて、俺の掛け布団をバッと撥ね上げた。
それと同時に俺は彼の襟を取って、
俺と入れ替わるようにベッドに放り投げた。
トレーに載せて運んできたらしいオレンジジュースが、
彼の上に毀れ、シーツも黄色く染まった。
大成功だ!!
大笑いしながら彼を見た。

ん!!??
誰だ、この子は??!!
そこにはオレンジジュースまみれの知らない女の子がいた。
それがヨーコとの出会いだった。

それからのヨーコとの話は、また次に書きたい。